TWIGGY. 徒然日記 vol.6
カットはもちろん、プロダクトやスパにカフェ、そして自然電力の勉強会にポップアップなど、TWIGGY.を全方位的にリアルで体験する日々をエッセイでお届け。読めばサロンのさまざまな“引き出し”を疑似体験できるかも? 6回目は話を聞いた人誰もが“ほぉ”となる、忘れじのTWIGGY.のヘアカラー。
ステファンのヘアカラー、
キャラクターに(必ず)寄り添う
20年近くもひとつのところに通っていたら、誰であっても、誰に話してもイケるネタのひとつやふたつはあると思う。そしてそんなネタには、2つの種類があるのではないだろうか。1つは、鮮度が命のタイムリーネタ。もう1つが、いつ話しても“ほぉ”と感じてもらえるエターナルネタだ。
TWIGGY.でカットしていると、たまに鏡越しに雰囲気ある素敵なマダムが写り込んでくる。見惚れていると、松浦美穂さんが「ステファンのお客様よ」と教えてくれる…ということがたまにある。
ステファン・デュポンはフランス人のヘアカラーディレクター。カットもセンスならば、カラーもやはりセンスがものをいうが、TWIGGY.のヘアカラーにおいてのセンスをリードする人物である。
まだサロンが前の西麻布にあった頃、多分15年以上前だと思う。ふと思い立って、カラーをお願いすることにした。そこに現れたステファンは、鏡越しにしっかりと目を合わせて挨拶すると、「どう(カラーが)したい?」ではなく、「なぜ(カラーが)したいの?」と尋ねた。まるで志望理由を聞く入社面接のように。“どう?”ではなく“なぜ?”という問いにいささか驚きながら、とくに大した理由がなかった私は、確か「なんとなく」ぐらいに答えたと思う。しかしステファンの答えはとてもよく覚えている。彼は、こう返してきたのだ。 「今の髪色が似合っているから、特にカラーの必要はないんじゃない?」と。
これにはとても驚いた。カラーディレクターなのに、カラーを勧めないなんて…。彼に、今までずっと地色であったこと、髪“型”以外の変化での可能性を感じたいみたいなことを伝えた。すると、それなら…と、私のことをしっかりと見つめた後、色を選んでくれたのだった。
クライアントの言われるがまま、ではなく、自身の美意識と経験を素地として導いた意見をはっきりと伝える。とてもレアかも知れないけれど、これはある意味プロの正しい仕事の仕方だと思う。そして仕上がった髪色は、ニュアンスがある濃い目のブラウンだった。今度は鏡越しではなく顔を覗き込むようにして目を合わせ、「いいね。この色なら、あなたの、個性を殺していない」と言ってくれた。
その後カットも済んで会計のためにレセプションカウンターにいると、「どうもありがとう」と言いながら、ステファンがやってきた。カウンターからエントランスまでのアプローチを一緒に歩き、ドアを開けて私の肩ぐらいの長さの髪をサラッと手ぐしで動かした。そして彼は「うん、自然光でも違和感ない。よく似合ってる」と言って、見送ってくれた。
TWIGGY.に通っている、と話すとたまにどんなところかと訊かれることがある。「ファッションではなくスタイルをつくっている」というのは、ココ・シャネルの名言だが、松浦美穂さんというまさにスタイルをつくる人にカットしてもらっていること、メディアでのチャレンジングな企画たち、そしてオープン以来支店を持たず1サロンでの経営であることは、美容好きの範疇を超えて興味の対象になるのは自然なことであるだろう。
その際、このステファンとのエピソードを話すことが少なくない。みな、好意的に捉えてくれるし、なかなかできないよね、と感心したような口調で言われることもある。また、TWIGGY.のスタッフに対して話したことも何度かある。みな「ステファンらしい!」と異口同音に言う。どうやらこのステファンのカラー体験は、私的エターナルTWIGGY.ネタであるだけでなく、今も変わらぬステファンの姿勢でもあるようだ。
- writer
-
田中敏惠(Toshie Tanaka)
ジャーナリストの経験を活かし、エディトリアルディレクションやプロデュースを請け負う株式会社キミテラスを立ち上げる。TWIGGY.には西麻布のサロンから通い始め20年近くとなる。ライフワークでもあるブータン王国との架け橋の一環として、本年よりClean Bhutanの日本エージェントに。
kkimiterasu.net
PICK UP
-
-
Pick up
-