「色に出会う旅 vol.2 奄美大島の泥染め(後編)」
ヘアカラーリスト大島佑介は、TWIGGY.に入社してから「生活のすべてが勉強になる」と学んだと言います。美容室を営む家で育った大島ですが、TWIGGY.に入ってから驚いたことに、「みんな感性で話すこと」「旅行の話が仕事につながっていること」があったと話します。手技の練習だけではなく、生き方や出会いがヘアカラーリストとしての自分自身を養うのにいかに重要か——。ある染色家との出会いを通じて「ステージが変わった」という大島の“染色人生”をご紹介します。
奄美大島にある染色人の工房を尋ねた大島が、実際に見て聞いて感じたこと、そしてヘアカラーへの可能性について、二回に渡りお届けしています。
泥で髪を染めることの可能性
奄美大島の伝統技法「泥染め」で髪を染めていた「金井工芸」金井志人(ゆきひと)さんの姿に衝撃を受け、奄美大島にある同工房を訪ねた大島。「金井工芸」で体験した泥染めに大きな刺激を受けた大島は、泥染めによるヘアカラーを実現できないか、自ら研究を重ねていました。
奄美大島での旅を終えた大島は、染めに必要な泥や車輪梅などの材料を東京に送ってもらい、旅の記憶をカタチにするためサロンで研究の日々をスタート。工芸で染めた毛束を参考に「18〜19 Lv」、「12〜14 Lv」、「白髪30%」3種類の毛束を用意し、それらを「車輪梅」、「泥」、「福木」、「茜」という自然の染色方法で染めてみました。
※Lv=カラーレベル。数字が大きいほど明るい
①「テーチ木染め」
②「泥染め」
③「福木染め」をおこなってから「泥染め」
④「茜染め」
白い布や糸と異なり、日本人の髪は黒いため、白髪もしくはブリーチをしたイエローベースの髪に染色をしていきます。そのため、青を入れたら緑になったり、緑を入れたら青味を感じる黄緑になったりと、金井さんの作品づくりともまた違う染色が面白いところ。上の写真でご覧いただけるように、思いの外、工房で染めたものと近い色味がサロンでも出せたことで大島の中で実現性がグッと上がったと言います。しかし課題も...。
「今後、泥染めをヘアカラーとして活用するにあたっての課題はたくさんあります。まずは染料の粘性。ヘアカラーはペースト状なのに対し、泥染めの場合はサラサラの液体状。お客さまの髪に塗るには解決する必要があります。粘性を高めるために小麦粉や米粉など様々混ぜてみましたが、まだ答えにはたどりついていません。
次にテクスチャーと香りの問題です。酸化鉄の影響なのか、手触りはバサバサとしていて、ツンとした酸の香りが残ります。製品化するならば、ここの部分は研究者にお願いしたいところ。泥染めを面白いと思ってくれて一緒に考えてくださる方や企業さん、絶賛募集中です!(笑)。奄美大島で出会った“島の色”をTWIGGY.という名を借りて、ヘアカラーとして活用する可能性をしっかり探っていきたいと思っています」
偏りのない姿勢でいたい
伝統的であり自然である。泥染めに惹かれるポイントはたくさんありますが、「ただ伝統的」「ただ自然」であることが目的ではないと大島は語ります。
「泥染めのヘアカラーを伝えるにあたり、『オーガニックだからいい』ということではないことも伝えられたらと思います。僕がヘアカラーリストとしてサロンに立っている以上、ケミカルなものの学びも生かしつつ、偏らずに提案したいと思っています。オーガニックなものだけでは表現できないものもあるし、カラーを入れたいのであればブリーチした方がいい場合もある。オーガニックといえばヘナカラーが有名ですが、通常のカラーに戻しにくいため、次に明るくしたいときにどんな提案ができるか…数手先を見越して考えられるのはカラーリストとしての技術だと思います。なので、泥染めすることがゴールになってはいけないと思うのです。
旅を通して“タネ”を増やしつつ、それをより良く育てるために、化学や技術の力を借りて実現したい。僕はそういう偏りのない姿勢でありたいと思っています」
大島のヘアカラーリストとしての在り方や、個性がカタチ作られたのは、持ち前のバイタリティーを生かし、旅先にしかない“色”や“人”に出会ってきたから。流行りを追う色を作るよりも、旅を通して引き出しを見つけていくことが、ヘアカラーリストとしてのモチベーション源になっているのでした。
- Traveler
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大島佑介(Yusuke Oshima)
1985年生まれ。「TWIGGY. salon」のヘアカラーリスト。 2007年からカラーリストとしてTWIGGY.に参加し、独自のカラーデザインを表現。ヘナや草木染めの知識も豊富で、自然由来のカラー剤とブリーチを組み合わせたヘアカラーを得意としている。プライベートではDJとしても活動。イベントやアパレルショップなどでミュージックプレイリストの作成をしている。
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