カットはもちろん、プロダクトやスパにカフェ、そして自然電力の勉強会にポップアップなど、TWIGGY.を全方位的にリアルで体験する日々をエッセイでお届け。読めばサロンのさまざまな“引き出し”を疑似体験できるかも? 初回に続き、2回目も松浦美穂のヘアカットについて。

「あわいの会話、
サロンの個性を写す」

数ヶ月前のことだ。カット中に新規の事業について、美穂さんに相談をしたことがある。それはTWIGGY.とのコラボ提案も含まれていた。私の話を聞きながら、美穂さんはちょっと考えるような顔をして「TWIGGY.や私ができることはもちろん協力したいと思うけれど、それよりもこの人に話をしたらよいと思う」と、ある人を紹介してもらった。

先日のカットでその御礼を伝えると、先方からもあらかじめ連絡がいっていたようで、三方良しとなりそうな展開に、彼女はとても喜んでくれた。そして「私だけだと限界があるけれど、ココとココをつなげたらきっともっと面白いことができるはずだと思ったの。そういうときは、自分が架け橋になっていこうと思っている」のだという。

美容師は人相手の仕事であるし、ショーや広告のヘアの仕事でも活躍する彼女の顔が広いのは当たり前のことだろう。しかし、それとソーシャルグッドな事柄の発展のために、自身で予見できるビジョンにそって適任の人物を紹介するというのは別の話である。事実美穂さんの耳には「美容師なのだから、髪のことだけに集中していればよいのに」という意見も聞こえてくるようだ。

果たしてそうだろうか。TWIGGY.というサロンでは、よく“髪と地球環境はつながっている”という。髪の大地である頭皮を健やかに保つには、紫外線や乾燥といった外的要素だけでなく、良質の食物から得られるバランス良い栄養が必須である。そのためには作物を育む大地の健やかさは無視できない。また食糧やエネルギーは世界に課せられた目下最大の課題のひとつである。前回の話のように、ヘアスタイルのひとつまみのカット、数ミリの長さという極近視眼的な事柄にも最大の心を配りながら、それと同時に鳥瞰(ちょうかん)のような広い視野でサロンワークを考えているのだ。

美穂さんとの会話コンテンツは、先程のような限りなく仕事な相談案件だけでない。パンデミック前ならばバカンスシーズン前には旅の話を必ずしたし、農業や政治、もちろんファッションのことだって話す。ヘアという、ともすれば外見=視覚的要素にのみ関わると思われるようなことを委ねに通っているのだが、蓋を開けてみればカットの間に実に豊かで広いsomethingを分けてもらっているのである。

銀座にある「ロオジエ」というフレンチレストランは、日本にレストラン文化を確立させた名店だが、初代シェフのジャック・ボリー氏は“レストランは料理が6割”と常に話していたという。皿の上だけでなく、サービスや空間演出など複合的な要素のどれもおろそかにはしてはいけないという意味だろう。美穂さんは、ヘアスタイルによるイメージチェンジ請負人のように捉えられることも多い。けれど彼女も髪“型”を生み出しながら、その先やその周りに多くのことを内包している。TWIGGY.もまた然り。そんなことを、カットの間の会話や空間の雰囲気から感じることができる。

この日、自然光の入るサロンを、春の陽光が壁を照らしていた。屋上の庭園の季節がやってくるなぁと思っていたら、「ではこれで一旦乾かしましょう」と美穂さんの声。作業をひとまず終えた彼女は、風のように次のクライアントのもとへむかっていった。

writer

田中敏惠(Toshie Tanaka)

ジャーナリストの経験を活かし、エディトリアルディレクションやプロデュースを請け負う株式会社キミテラスを立ち上げる。TWIGGY.には西麻布のサロンから通い始め20年近くとなる。ライフワークでもあるブータン王国との架け橋の一環として、本年よりClean Bhutanの日本エージェントに。
kkimiterasu.net

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