30周年をむかえて、リスタートに込める想い 後編
2020年に30周年をむかえたTWIGGY.。オープン当初から止まることなく歩み続けてきたTWIGGY.の変わらない哲学とは?これまでの道のりと、これからの未来―人間だけでなく地球にとっても心地よい、本質的な美しさを表現するヘアサロン―を、オーナーの松浦美穂が語ります。
前編はこちらから。
30周年のビジュアルに
込めた想いとは
―TWIGGY.はオープン以来、節目ごとにイメージビジュアルを
クリエイションされてきたそうですね。そこには、前編でお話ししていた美容師として
表現者でありたいという想いもリンクしているのでしょうか?
そうですね。サロンワークだけでなく作品やビジュアルすべてが、表現とリンクしています。自分の中にある想いを、具体的に言葉で伝えようとすればするほど難しい。クリアに理解しなくてもいいから身体や五感で受け止めてほしくて、これまでさまざまな作品やビジュアルで私たちの想いやビジョン、世界観を表してきました。
私たちにとって表現することは、ヘアカタログのようにヘアスタイルを切り取って見せることではありません。大切なのは、ヘアスタイルだけを際立たせるのでなく、その“人”の個性や空気感、メイクや衣装、背景に映るロケーションも含めて、魅力的に見せていくこと。これは、美容師として表現をする上で自分のベースになっています。
30周年のビジュアルで表現したかったもの
―美容師として表現者であり続ける姿勢がイメージビジュアルにもつながっているんですね。30周年をむかえ撮影したビジュアルには、どのような想いが込められているのでしょうか?
TWIGGY.はサロンオープン以来エッジの効いたスタイルを表現しながら、水を汚さないオリジナルプロダクトの開発や全館を自然電力へ切り替えるなど、人間にも地球にも心地よい取り組みをおこなってきました。30周年をむかえた今回のビジュアルでは、TWIGGY.が提案し続けてきた“クリエイティブなスタイル”と“ナチュラルなライフスタイル”、そして自分の中で常に揺らがない美学をひとつの絵に表現したかった。それには、ただTWIGGY.の30年間の総まとめやこれから先に描く未来をイメージするだけでは表現しきれないと思って。まずはTWIGGY.という枠を超えた広い視野を持つことを意識して、時代や人種、性別にとらわれないボーダーレスなビジュアルをつくりたいなと考えはじめました。
―具体的にインスパイアされたものはあるのでしょうか?
まず、自然界に不変的に存在する微生物のことが頭に浮かびました。地球には太陽や空気、水、土が存在し、その恩恵を受けて動物や植物、人間が生きています。そこには何億万個という微生物が常に存在し、古代から現代、未来まで生き続けている。時代を超えた世界観を表現するために、微生物の存在は欠かせないと思いました。
そして、微生物は私たち人間とも共存しています。体内にある微生物は身体の9割を占め、人間本来の免疫力を引き出し外的要素から守ってくれています。ここ数年で、微生物がたくさん含まれるオーガニックの発酵食品を食べれば、身体が本来の働きをして元気になるということを、多くの人が知りましたよね。私たちが健やかに生きていくには微生物の力が大切だということも、このビジュアルで表現したかった。
人間も地球も、そこに存在する微生物も、すべては共存し合い循環している。人間にも地球にも心地よい持続可能な世界が実現することを願い、次世代へのメッセージとしてビジュアルに想いを込めました。
ウィッグを草木染めするという、新たなチャレンジ
―モデルさんが着用されているウィッグは、どのような発想から思いついたのでしょうか。
スタイリストの長瀬哲朗さんと色について話をする中で、昔は暖色のことを“赤”と呼び、グリーンから藍に繋がる寒色系を“青”と表現をしていたことを知ったんです。青は生命のエネルギーを表す色だということも聞きました。そこからイメージして、ヘアスタイルの色は青を基調にし、差し色として赤を入れることにしました。
また、新たな試みとしてウィッグを草木で染めてみたことも大きかったですね。サロンワークではこれまでも、環境に負荷をかけない取り組みの一環としてヘナカラーをおこなってきましたが、草木染めははじめて。インディゴを入れたバケツの中にウィッグを浸けて染めるという、かなり実験的な方法だったのですが、これが大成功。人工的なウィッグとプリミティブな草木染めを掛け合わせることで、ボーダーレスな世界観や遊び心を表現し、TWIGGY.らしく進化したヘアスタイルを提案したつもりです。
―ウィッグを草木染め!面白そうですね。
ウィッグをよく見ると、さまざまな色が混ざっています。
インディゴのほかに、TWIGGY.の屋上で育てている紫色のトケイソウや黒と赤のハイビスカスからイメージした色味が混ざっています。ヘアスタイルは平面ではなく立体ですから、単色に染めても光のあたり具合によって見え方が全然違う。TWIGGY.のカラーリストは、常にその点を計算してサロンワークをおこなっています。今回の撮影でも、ウィッグを被るモデルと当日の自然光をイメージして、毎日のように仕込みをしてくれました。しかも、実際にモデルが被ったときの全体のバランスを見ることができるのは撮影当日だけ。それに対応するために、スタイリストやアシスタントがものすごい数のウィッグを仕込んでくれたんです。その姿を見て頼もしく思ったし、私が仕事にそそいできた愛情や熱意を、まるでDNAのように受け継いでいるんだと感じました。
TWIGGY.に欠かせない “DNA”の存在
―今回のビジュアル撮影でも、“人”が大きく関わってきていますね。
30周年のビジュアルではスチールとムービーを撮影し、ヘア以外の部分でもスタイリストの長瀬さんやメイクのcocoさん、カメラマンのTAKAYさん、映像編集やキャスティングスタッフ、ケータリングスタッフなど、たくさんの仲間に参加してもらいました。そんな中、ムービーの世界観を表現する上で大切な音楽を手がけたのは、TWIGGY.のカラーリスト大島とアシスタント石垣の2人。大島はDJとしても活動し、石垣は個人で音楽を製作しています。実はTWIGGY.はもともと60年代70年代の音楽を愛する私の夫と、音楽好きな初代スタッフが集まって出来たようなもの。そこへ若い世代が入社してきて、「昔の曲っていいじゃん」とか「新しい曲とミックスしたら面白いかも」とか、古きよきカルチャーに刺激を受け、感性を進化させている。これもTWIGGY.のDNAだと思うんです。
―30周年のビジュアルには、そういったDNAの連鎖も表現されていますか?
はい。たとえば、今回参加してもらった3人のモデルのうちのひとりが、内田裕也さんや樹木希林さんのDNAを継ぐUTAくん。TWIGGY.には3世代にわたって通ってくださるお客さまもいるのですが、普通、10代の若い子はお母さんと同じ美容室に行こうとはしませんよね。でも私は、「お母さんが通ってる美容室って素敵だね」と興味を持ってもらえるサロンにしたい。あらゆる世代のお客さまに「TWIGGY.に来たことで新しい自分を発見できた」と思ってもらえる美容室にしたい。そんな緊張感を表現したくて、UTAくんにお願いしました。
実は撮影当日、奇跡のようなことが起こったんです。「今からUTAくんの後ろ姿を撮ろう」というとき、それまで雲ひとつなかった空に、突然、龍のカタチのような雲が現れた。過去と未来を繋ぐ龍が出てくるなんて、ものすごく縁起がいいことですよね。内田さんも希林さんも喜んでいるんだろうな……と、人と人をつなぐDNAの存在も感じた瞬間でした。
30年を迎えて、TWIGGY.が向かう未来
―TWIGGY.にはいろんなDNAが息づいていますね。
では、どのようなDNAが新しいTWIGGY.をつくりあげていくのでしょうか。
私「ずっと軸がぶれないよね」って、よく言われるんです。この30年を振り返ったときに、仕事に対する姿勢もヘアデザインに対する想いや美学も全然変わっていない。そのブレない軸が、TWIGGY.のDNAとしてスタッフに引き継がれてきました。でも、日々気持ちや感情は変わっていくし、ぶれない軸だけを大切にするのでは視野が狭くなってしまう。だから、TWIGGY.の由来でもある小枝のように、さまざまな要素を吸収しながら成長し、どんな風にもしなやかになびいていきたい。それが私たちの振り幅となり、新しい何かを掴むきっかけになる。そして、TWIGGY.の進化につながっていくと思うんです。
オープン以来、変わらずにいるのは私だけでスタッフはどんどん変わっていく。だけどTWIGGY.の軸となるDNAは、歴代スタッフの中で引き継がれています。1日1日、本当に小さな階段を登り続けた30年。今、新しい時代をつくるためのメンバーは確実に揃っている。それがありがたいし、頑張ってきてよかったなと感じています。もちろんこれからも、より新しい世代にDNAを引き継いでいってほしい。年齢や経歴を超えて想いや意見を交換し、よい新陳代謝を生み続けてほしい。それが理想ですね。
私、TWIGGY.をよくバンドにたとえるんですよ。バンドってボーカルがいてギターやベース、ドラムなどの楽器を奏でる人がいて、それぞれの役割がきちんとあるじゃないですか。お互いに同じ熱意を持っているからこそ、よい音が出せるし、どの音が欠けてもバンドとしての音は完成されない。TWIGGY.も同じです。それぞれのポジションでプロフェッショナルに考えて、その人にしかできない仕事をしてほしい。上とか下とか関係なくフェアな立場で、それぞれの個性を持つスタッフとセッションしていきたい。これからもそんなTWIGGY.であり続けたいと願っています。
PICK UP
-
-
Pick up
-