TWIGGY.cafeのドリンクやスイーツ、料理によく登場するレモンは、神奈川県真鶴町にある「Orange Floral Farm」で生産されています。見晴らしのよい高台にある農園で育てられるレモンは、防カビ剤・土壌改良剤・除草剤・ワックス等を一切使用しておらず、カフェのシェフいわく、皮まで旨味が詰まっていて他のレモンとはまったく味が違うそう。

今回は「Orange Floral Farm」の佐宗さんのもとへ、日ごろから交流のある優シェフが訪ね、対談が実現! 生産者とシェフ…同じ“つくり手”だからこそ通ずる“食”に対する想いとは…? vol.1とvol.2に分けてご紹介していきます。

vol.1
レモンの“声”に、耳を傾けながら育てる

優シェフ:何度も農園に来ていますが、いつ来ても本当に気持ちがよいですね。


佐宗さん:優さんが冬に来るのは、はじめてかしら? そんな風に言っていただけてうれしい。こんなに農園に来てくださるシェフは、優さんがはじめてです。


優シェフ:本当ですか? 私は佐宗さんのレモンはもちろん、この農園も大好きで…。農園から見える海、そこから吹く風、降り注ぐ太陽が気持ちよくて、はじめて訪れたときは「あぁ…この環境だからこんなに美味しいレモンが育つのだな」と納得がいきました!

テラスから一段さがった場所にあるレモン畑。

佐宗さん:嬉しい~! 以前は東京に住んでいたのですが、私も主人も海が好きで、この真鶴という土地に出会い移住しました。海から吹きあげる風と豊かな太陽の光、またそれらをほどよく遮る森や竹がある真鶴半島先端近くの農園の環境が、レモンにぴったりなんです。
じつはここの周りの農家さんの多くはみかんを生産されているのですが、あとから移り住んだ経緯もあって他の農家さんと競合しないように別の果実を育てた方がよいなと思ったのと、みかんは害虫に弱いので農薬を使わないと育てるのが難しいという理由もあり、大好きなレモンの苗を植えてみたのが「Orange Floral Farm」のはじまりです。

優シェフ:そうなんですね! 佐宗さんのレモンは、防カビ剤・土壌改良剤・除草剤・ワックス等を一切使わずに、レモンの“生きるちから”を第一に考えて育てていらっしゃるんですよね?


佐宗さん:はい。ここは見ての通り、半島で海に囲まれている場所でしょう。もし農薬をつかったら、レモンだけでなく、ふかふかの土やきれいな海、さらには魚にも影響を与えてしまう。もちろん食べる側の私たち人間の身体にも…。未来の子どもたちの健やかさを考えたときに、“食”が身体や地球に負のサイクルを与えることはあってはならないと思いました。

農園のまわりはたくさんの鳥たちが飛んでいました。
土をみるとモグラが現れた跡が! これは土壌が豊かな証拠なのだとか。

佐宗さん:もちろん農薬を使わないことで大変なこともありますが、日々レモンと向き合いながら育てるのはとても楽しいですよ。たとえばレモンの木を見てみると、葉っぱに隠れるように実がなっているでしょう。レモンの声を直接聞くことはできませんが、きっと直射日光と風から身を守るためなのかな…なんて思っています。なので、今は無理に葉っぱや枝の手入れをせず、見守るように育てています。またたくさん実をつけた木は、次の年になるとあまり実をつけません。実をつけていた木でも、急に実を落とす子もいるんです。きっと疲れているから休みたいのだろうな…と想像して、無理にレモンを元気づけないようにしていますね。
レモンだって私たちと同じ生き物。だから、元気なときもあれば疲れてしまうときもあります。私はそのときのレモンの様子を見て、このレモンの気持ちはきっとこうだろう…と声を聞くように育てていますね。

レモンの木の中に入ると、たくさんの実がなっている。

優シェフ:なるほど…。私は佐宗さんのレモンをはじめて食べたときに、程よい苦みと酸味、レモンの濃い味、あとは皮まで美味しいことにとても驚いたんです。今のお話を聞いて、他のレモンとの味の違いがすごく腑に落ちました。
佐宗さんはレモンをただ育てているのではなく、一つひとつの様子を見て対話をしながら育てていらっしゃる。だからレモンは自由にのびのびと育ち、本来の旨味をぎゅっと身につけることができるのでしょうね。よくお花を育てるときも「おはよう」とか「かわいいね」とか声をかけると、元気に育つというじゃないですか。佐宗さんは、レモンをわが子のように愛情を込めて丁寧に育てていらっしゃる。そんな愛情の結晶が、あのレモンの味わいに現れているのだとすごく感じました。


佐宗さん:優さん…嬉しいです。ありがとう。私はレモンの声を聞きながら、もうひとつ「この子はどんな風に姿を変えて調理されるのだろう…」ということも想像しながら、レモンを育てています。特にTWIGGY.cafeのレモンを収穫するときは、「優さんの魔法でどんなおいしい料理になるのかしら」と心の中でエキサイティングしています! 私はTWIGGY.のサロンにもともと通わせていただいた縁でレモンをお届けすることになりましたが、いつもサロンの帰りにカフェに立ち寄ると、私の育てたレモンが姿を変えて美味しいカレーやタルト、ドリンクになっているのを見て…食べて…、本当にうれしくなるんです。私たち生産者は食材を業務用として出荷したあと、その子たちがどんな料理になっているか直接知る機会は少ない。でもTWIGGY.では自分の口で確かめることもできるし、優さんからもお客さまの声を聞くことができるので、それが真鶴に帰ってレモンをつくるときのパワーとなるんです。
それにしても、優さんはもう…レモン博士! まさかカレーにレモンを入れるなんて、最初は本当に驚きました!

人気のレモンパスタとレモンカレー。
生地とクリームにレモンを余すことなくつかったレモンタルト。

優シェフ:博士ですか?!(笑) でも確かに、佐宗さんのレモンの味は研究していますね!じつは1番はじめにレモンカレーをつくったときは、レモンを煮込みすぎてしまい、少し苦くなってしまったんです。だからその次は、カレーを煮込む前にレモンを取り出して、盛り付けるタイミングで戻すようにしました。またシーズンによって、同じ品種でもレモンの味が少しずつ違う。まずレモンが手元に届いたら、味を確かめて「今回はこの品種は苦みがあるから、甘みのある品種を混ぜてレモネードにしよう」と他のシェフとよく相談しますね。
佐宗さんからレモンを取り寄せて改めて思うことですが、ベストシーズンがきても、いつも同じ味のレモンが届くとは限らない。果実は生きているからこそ、年によって味が違うのは当たり前です。その時々の食材の個性を生かして、料理に落とし込んでいくのが私たちシェフの仕事だと痛感しますね。


佐宗さん:そうですか! 私たちはそこまで一つひとつのレモンの違いは分からないかも…。でも確かに、同じ品種でもその年によって味に違いはあるはずですよね。
そんな風にそれぞれのレモンの個性を料理に活かしてくれていて、やっぱり優さんのようなシェフに食材を届けることができてうれしいです。

Orange Floral Farm

アクセス:〒259-0201 神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴1147-4
TEL: 0465-69-2239 | FAX: 0465-69-2052
営業時間: 10:30 - 15:00 / 不定休 (ご来園の際は、事前にお問い合わせください)
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chef

山田 優(Yu Yamada)

1984年生まれ。さまざまな飲食店で勤務する中、自身の体調不良をきっかけにマクロビオティックインストラクターの資格を習得。フードコーディネートやケータリング、レシピ開発など幅広く活動。TWIGGY.cafeには2016年よりMEAT FREE MONDAYのシェフとして加わり、現在は毎週月曜日と木曜日を担当している。

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